ヨーロッパの田舎町のロマネスク芸術巡り

中世のヨーロッパで花開いた素朴で暖かなロマネスク芸術を、ツアーならではの効率の良さでご案内します

  • サン・ファン・デ・ラ・ペーニャ修道院回廊

  • 全能のキリスト、カタルーニャ美術館

  • 王室礼拝堂のモザイク、アーヘン

  • サン・ピエトロ教区教会、グロッピーナ

 

 

およそ1,000年前の世紀末。ヨハネの黙示録で示されたさだめの時となっても、この世に終焉は訪れませんでした。人々は神の力に感謝し、神の慈愛の大きさを強く感じ、ヨーロッパ各地で巡礼が始まりました。フランスからスペインのサンティアゴ・デ・コンポステラを目指す、全長900km にも及ぶ巡礼の旅路です。そして11~13世紀、その巡礼の道に沿って数多くの頑丈な石造りの教会が建設され、荘厳な内部空間に全能者キリストをはじめマリア像や聖職者などのフレスコ画が力強く描かれました。輪郭を形どる明確な線と、鮮烈な色彩によって、画面の迫真性は増し、神への絶対的な信頼がそこに表わされたのです。また、文字の普及がまだまだの時代、時に大胆な構図で、時に神秘的なまでに美しい装飾で、手にとるようにわかり易く神の世界が彫刻として施されました。ロマネスク様式と呼ばれるこの時代の建築や絵画・彫刻は、1,000年の風雨に晒されながら、辺りの豊かな自然にしっくりと馴染み、今でも村人達の心の支えになっています。

ロマネスクの特徴

チロル城、メラーノ、イタリア、ロマネスク チロル城の礼拝堂の彫刻、メラーノ、イタリア

ゴシック以降のキリスト教文化が都市を中心に栄えたのに対して、ロマネスク時代のものは豊かな自然と信仰の場が調和しているのが特長的です。山の斜面や霧に包まれた森の奥などに佇み、しっとりとした情感を漂わせるロマネスクの教会・・・人間がひとつひとつ重い石を積上げたという確かな感触を今に伝え、何とも言えない素朴な温かみがあります。また絵画や彫刻のデザインは、大胆かつユーモラスですらあり、その稚拙さがかえって、権力者の威光誇示では決して無い、名もない人々の純粋な信仰を滲ませており、訪れる者に静かな感動を呼び起してくれます。

キルペック、セントメアリー・アンド・デイビッド聖堂、イギリス、ロマネスク キルペックの持ち送りの彫刻、イギリス

一度ぜひ先入観無しに、ロマネスク美術と向き合ってみて下さい。宗教芸術というと難しそうで躊躇される方もいらっしゃると思いますが、ロマネスクは本当に素朴で、1,000年前の人々の喜怒哀楽やが真っ直ぐに伝わってきますし、またピュアな祈りの気持ちが胸をうちます。

フランスのロマネスク

巡礼路の拠点となったトゥール(又はパリ)、ウェズレー、ル・ピュイ、サンジル(又はアルル)の4都市をはじめ、クリュニュー系修道院の発展により中世フランスにも多数の教会が生まれました。シンプルさを良しとしたシトー派のフォントネーやセナンク、シルヴァカンヌなどの修道院は光と影が織り成す凛とした空間美が楽しめ、一方、モワサックやサンサヴァンなど溢れる装飾に圧倒される修道院も甲乙付けがたい魅力に溢れています。

コンクのサント・フォワ教会、タンパンに現された「最後の審判」

サント・フォア教会の最後の審判、コンク、フランス、ロマネスク サント・フォア教会の最後の審判、コンク

ラテン語の「コンカ=貝殻」に由来するその名前通り、山深いところに貝殻に守られたように佇むコンクは、中世の空気がそのまま封じ込められたような可愛らしい村です。その集落の中心にあるのが、サント・フォア教会。12世紀の頃より、聖女フォアをまつる聖堂を目指して多くの巡礼者が訪れました。この教会正面タンパンには、キリストを中央に、天国と地獄を左右に、「最後の審判」の風景が刻まれています。気の遠くなるほどびっしりと緻密に描かれた幾つもの物語を眺めていると、時の経つのを忘れてしまいます。

オータンのロラン美術館に納められる「イヴ」のレリーフ

イヴ、オータン、ロラン美術館、フランス、ロマネスク イヴ、オータン、ロラン美術館

かつて、ロラン美術館にほど近いサン・ラザール大聖堂の入口を飾っていた彫刻です。禁断の果実を片手にした艶っぽいイヴの裸体が、厳粛である教会の正面を憚ることなく飾っていたわけです。12世紀当時の石工のハイセンスさがキラリと光る作品です。 

ピレネー山中~麓の小教会へ

  • サン・ジャン修道院2、ソルド・ラ・ベイ、フランス、ロマネスク

    サン・ジャン修道院のモザイク、ソルド・ラ・ベイ

  • 義足の狩人、レスカール大聖堂、フランス、ロマネスク

    義足の狩人、レスカール大聖堂

ピレネーがスペインとの国境を成す前の中世。今のフランス南域はカタルーニャやアキテーヌといった国々がそれぞれの文化を育んでいました。山中にひっそりと佇む修道院や、巡礼者の祈りを刻んだ教会。宗教戦争やフランス革命で朽ちてしまった教会…山を、尾根を越える度に出会う教会が刻んだ物語は尽きることがありません。

西フランス、ロワール川の恵み

  • サン・マルタン教会、ノアン・ヴィック、フランス、ロマネスク

    サン・マルタン教会、ノアン・ヴィック

  • 竪琴を弾くロバ、サン・パトリック教会、サン・パリーズ、フランス、ロマネスク

    竪琴を弾くロバ、サン・パトリック教会、サン・パリーズ

ロワール川流域は、交通と交易の産物として大教会や大修道院がたくさん造られました。サン・サヴァンやラ・シャリテ・シュル・ロワール、サン・ブノワ・シュル・ロワールはその代表格。思わず圧倒されてしまいます。一方、小さな村には、今もロマネスクファンの訪問を待つ珠玉の壁画や彫刻が残っています。日本のロマネスク本にも紹介されていないような、傑作の数々をご案内いたします。

スペインのロマネスク

サン・ファン・デ・ラ・ペーニャ修道院回廊、スペイン、ロマネスク サン・ファン・デ・ラ・ペーニャ修道院回廊

レコンキスタにより徐々に異教徒を排除しキリスト教が力を巻き返した中世。
聖地サンティアゴ・デ・コンポステラの発展とあわせ、スペイン北部を中心に、たくさんのロマネスク様式の教会が建てられた時代です。サンティアゴ・デ・コンポステラの大聖堂をはじめ、巡礼路にはいくつもの壮麗な教会が建ちました。一方、レコンキスタの最前線となった地方の街々もまた、再キリスト教化とともに流行りのロマネスク様式の新しい教会や修道院が次々に建設されてゆきました。

天地創造のタペストリー、ジローナ、スペイン、ロマネスク 天地創造のタペストリー、ジローナ

大都市の大教会は、後代ゴシックやバロック様式に立て直されていきましたが、田舎を巡ると、今なお村人や修道士が祈りを捧げる素朴な教会に出会います。また、スペイン・ロマネスクの旅では、ロマネスクへの時代の変化を感じられるプレロマネスクやビシゴートの傑作も見逃せません。

タウールのサン・クレメンテ教会と内部のフレスコ画「全能のキリスト」

全能のキリスト、カタルーニャ美術館、バルセロナ、ロマネスク 全能のキリスト、カタルーニャ美術館

タウールのサン・クレメンテ教会は、比類無いピレネーの美しい大自然に囲まれて、ひっそりと眠るロマネスク様式の教会です。かつて異宗教の波が押し寄せた際に、この辺鄙な山奥に隠遁した修道僧達が、何世紀にも渡り、ほぼ無傷のまま教えを受継いできた聖地でもありました。内部の後陣を飾る「全能のキリスト」はロマネスク芸術の傑作と讃えられ、長い時の流れを静かに刻み込んでいるその姿には、原始的な美しさが宿っています。灰色の石板が葺かれた屋根、厚い石壁に小さく開けられた明り取りから差込む一筋の光、そして淡い光に浮び上がる見事なフレスコ画は、シンプルで力強く不思議な神々しさがあります。
※「全能のキリスト」のオリジナルは保存のため、バルセロナのカタルーニャ美術館にあります。後にかのピカソにも影響を与えたというビビットな色使いは必見です。

サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院回廊

サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院、スペイン、ロマネスク サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院回廊、不信のトマスの彫刻

サント・ドミンゴ・デ・シロス修道院には、スペインで最も美しいロマネスク様式の回廊があることで知られています。繊細に描き出される「トマの不信」や「巡礼姿のキリスト」といった聖書のワンシーンや、意匠をこらした柱頭、ねじれた柱、そして石と光が作り出す光と影の美しいコントラストなどが必見です。また、現役のこの修道院では、ミサに参加し荘厳なグレゴリオ聖歌を聴くこともできます。

ドイツのロマネスク

  • 聖ペーター大聖堂、トリーア、ドイツ、ロマネスク

    聖ペーター大聖堂、トリーア

  • 王室礼拝堂のモザイク、アーヘン、ドイツ、ロマネスク

    王室礼拝堂のモザイク、アーヘン

カール大帝が礎を築き、オットー1世の戴冠により始動、フリードリッヒ1世の活躍により盤石なものとなった神聖ローマ帝国。
その歴史は、常に皇帝とキリスト教権威との共栄と競争の繰り返しでした。カール大帝の時代帝国の中心であったライン河流域や、オットー1世の拠点であったザクセン地方には、王たちが壮麗な大聖堂を築かせました。さらに、皇帝の権力が弱まると、各地の司教や大司教たちは、王のように自らの教会を大きくしていきました。
  • 聖ゲオルグ教会、ライヒェナウ島、ドイツ、ロマネスク

    聖ゲオルグ教会、ライヒェナウ島

  • ヴァルトブルク城、アイゼナッハ、ドイツ、ロマネスク

    ヴァルトブルク城、アイゼナッハ

帝国の広がりは、フランスやイタリアから成熟した腕を持つ職人や修道師たちを呼び寄せ、流行のロマネスク様式での建設を後押ししました。当代最高の権力と財の限りをつぎ込んだ教会は、いずれも大きく天まで届くほど高く伸びていきました。カール大帝の時代以降流行した「西の構え」は、バジリカ様式の西側ファサードに高い塔や2階3階部分を追加した形で、礼拝時に王族ら有力者のためのスペースとしても使用されました。後代には、第二の祭壇としての機能を持ち、東西の袖廊(翼廊)とともに、ドイツロマネスクを代表する平面プランとして確立されていきます。また、連続するアーチ構造やのっぺりとした壁面、多彩な後陣、アーケードの装飾など、建物そのものの形にぜひ注目してご覧ください。力強く堅牢で堂々とした佇まいのドイツ・ロマネスクの傑作は、ロマネスクを巡る旅に新たな魅力と意味を与えてくれることでしょう。

イギリスのロマネスク

セント・トーマス教会、プロンプトン、イギリス、ロマネスク セント・トーマス教会、プロンプトン

ケルトやバイキング、アングロサクソンなど異文化・異宗教を持つ人々の間に浸透していったイギリスのキリスト教。中世、そんなイギリスの教会の装飾はどこか異教の香りを漂わせた独特のものになりました。 宗教戦争や産業革命により多くの教会が破壊されてしまいました。

ケンタウロスの授乳、セント・メアリー聖堂、イフリー、イギリス、ロマネスク ケンタウロスの授乳、セント・メアリー聖堂、イフリー

しかし、地方の教会、中でもフォント(洗礼盤)とよばれる大きな石の盥は、壊すことも動かすことも難しく、捨て置かれたおかげで、今、私達はイフリーなどに残る傑作を目にすることができます。 ちょっとシュールで怖くてかわいい軒下の持ち送りの装飾や、蔦や鳥、熊など色々な生き物をモチーフとした彫刻も、イギリスロマネスクの特徴のひとつです。

イタリアのロマネスク

  • サン・ピエトロ教区教会、グロッピーナ、イタリア、ロマネスク

    サン・ピエトロ教区教会、グロッピーナ

  • オートラント大聖堂、イタリア、ロマネスク

    オートラント大聖堂のモザイク

  • 聖ニコラ伝説、エルドラド礼拝堂、ノヴァレーザ、イタリア、ロマネスク

    聖ニコラ伝説、エルドラド礼拝堂、ノヴァレーザ

カトリックの総本山ローマを要するイタリア。中世は南はビザンツ(東ローマ帝国)やイスラム教徒が支配し、北部はゲルマン系の神聖ローマ皇帝が支配するなど、様々な民族・文化・宗教が入り乱れた土地でした。北部の山中には小さな教会が点在する一方、南部の海岸線は異教や地中海世界に開けていた土地ならではの世界観で描かれた壮大な絵画表現が特徴的です。

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