ユーラシア旅行社の価値観 4

企業理念を求心力に、競争優位を確立する

 旅行会社の社会的価値が高まるためには、社員の意識が、海外旅行、国内旅行、インバウンドなど、旅行という枠組みの中に留まっていてはダメだと考えている。産業というのは、商品やサービスを提供するだけでなく、価値創造を行うことだ。コンピューターという商品を作って売るのではなく、コンピューターを通じて新しいライフスタイルや価値感の創造が行われる。それが社会に影響を与えるということであり、本当の意味での社会価値なのだ。

 旅行業の場合も、旅行業もしくは旅行業を通じて培った智恵を生かして、これまでの社会に存在しなかった新しい価値を創造して、それをビジネスに結びつけていかなければならない。たとえ異業種参入を行わず旅行業に経営資源を集中する場合でも、価値創造を顧客の信頼に結びつけてファン化を促進しなければ、浮動層を狙った広告に頼るしかなくなり、安定した経営を行うことは難しくなるだろう。

 そして、企業が新しい価値創造を行う為には、今の世界でいったい何が問題なのか、何が必要なのか、どう変えていかなければならないのか、そういう問題意識を旅行会社で働く社員が持ち続ける必要がある。その意識の継続が、個人の“信念”となり、そうした空気が浸透してはじめて事業部や会社の“理念”が形作られていく。企業に対するロイヤルティーは、“理念”に対するものが一番強く、その“理念”への求心力で社員は粘り強い力を発揮するし、組織としても力の方向が定まりやすくなる。

 また、仕事のやり甲斐とか誇りは、自分が成長し自信を持って仕事ができるようになるとともに、自分が所属する会社の理念や、会社や自分の社会的価値にも影響されるだろう。 はたして今日の社会で、旅行会社は、社員が自信をもてる理念や社会的価値を築いているだろうか。また社員は、自分に対して自信を持てるように自分を磨けているだろうか。どの産業に転職しても通用する自分であると自信を持って言えるだろうか。

 旅行業は、航空会社などサービス提供機関を直接管理しているわけでもなく、天災や戦争など外的環境要因に振り回されることも多いうえ、特許がないこともあって似たような企画商品が多くて自分のオリジナリティや創造性を試す機会も少なく、確かな自信が得にくい業種のように感じられる。

 そのような状況のなか、会社として、またそこで働く社員として自信を獲得するためには、その会社ならではの“理念”が大事だと考えている。そして、その“理念”を実現していくための戦略と戦術を築き上げていくことを通じて、オリジナリティや創造力が育まれる。観光地選択の差別化や、仕入れ力が弱いのに価格競争に走るという小手先のことではなく、人、情報、お金というトータルな経営資源を会社の理念、およびビジョンに そって組み合わせることで設計図を作りだし、そこに企業のエネルギーを集中させることで他社や他者が真似のできないシステムを構築し、そのうえに明確な企業イメージと信頼を築き上げること。それなくして、本当の意味での「競争優位」は確立できないし、企業の社会的価値や社員の仕事に対する自信につながっていかない。

 秘境旅行がブームになってきたという理由で秘境のツアーを企画するにしても、それが企業のイメージと戦略に合致したものであり、そこで働く社員の知識をはじめ充分な能力と経験が蓄積されていて、どんな危機的な状況にも対応できる体制ができていなければ、うまくいかない。企業の強みというのは、そこで働く社員がその強みを当たり前の感覚として受け入れ、そのことに自信を持っていることが前提になる。そして、その強みは、“理念”に裏打ちされているからこそ、継続的な“強み”になっていく。

 旅行産業の盛衰は環境要因に左右されやすく、そのビジネスは、常に時代の後追いをするようなところがあるが、物から心の時代へ移行していく兆しがある今日の社会の中で、人々の心に働きかける新しい価値創造を行って企業の信頼と発展につなげる可能性も僅かながら残されている。

 今日のように古いパラダイムが崩壊していく時代だからこそ、旅行産業というカテゴリーのなかで物事を考えるのではなく、より良い社会の実現のために何ができるかという発想で、ビジネスを展開していくべきなのかもしれない。